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白い恋人めっちゃ食べたいんですよ。ラングドシャおいしい。
ジングルベルが喧しく流れる商店街を早足で歩く。 ケーキは買った。チキンも買った。花束も買った。 胸元のポケットにはもちろん、プレゼントを忍ばせて。 一刻も早く家に帰りつきたかった。家では愛しい恋人が俺を待っている。 こういう時に限って信号との巡りあわせが悪い。はやる気持ちを弄ぶかのように、駅を出て一度、買い物を終えて二度目の赤信号。 恋人は今どうしているだろう。 「今日は仕事が早く終わるから、先に帰ってる」 そんなメールをもらったのが午後二時過ぎ。現在は六時半だ。とうに家に着いているに違いない。 ジングルベルエリアを抜けたらしく、流れる音楽は「諸人こぞりて」に変わっていた。 キリストの生誕祭であることを知りながら、それを祝うわけでもなくパーティーに興じる。 数多の神が同居する日本らしいやり方だなと、恋人は毎年のようにそう言った。 恋人が街に出てこない理由はそれだ。どうもこの喧騒が得意ではないようだった。 お互いに大学生になった年に同棲をはじめ、それからもう六年になる。 六年間俺は欠かさずにこの日花束とケーキを用意して家に帰っていた。 暇が十分にあった去年までと違い、少しだけ忙しくなってしまったのでチキンは今年は出来合いのものだ。お気に召すといいんだが。 赤信号が青く変わるまでの時間がとても長く感じられる。 一刻も早く家に帰りつきたいのだ。愛する人が待っているから。 いつの間にかちらほらと雪が降り始め、隣で待っているカップルの女性が「ゆきだよ」なんて彼氏に甘えている。 恋人がここにいたら、きっと眉間にしわを寄せて「早く帰るぞ」というのだろう。 静かなところで、お前と雪を見るのが一番いいなんて、そんなロマンチックな台詞を流れるように言ってしまう人なのだ。 何をしていても恋人のことを考えてしまう。 やっと車の往来がやんで、信号が青に変わる。 再び早足で歩きだして、この分ならあと少しで帰れそうだなと計算した。 帰ったらすぐに食事の支度をして、腹を減らしているであろう恋人の空腹を満たしてやろう。 ケーキの前に花束とプレゼントを渡して、シャンパンを開けよう。 喜んでくれるだろうか。きっと喜んでくれるはずだ。 マンションのエントランスを抜け、エレベーターに乗る。この時間すらも惜しい。 やっとの思いで部屋にたどり着きインターフォンを鳴らす。 一人でいるときは鍵をかけているように、といつも約束しているのだ。 エントランスはオートロックだが、それでも不審者が紛れ込まないとも限らないからな。 ドアが開く前に居住まいを正す。急いで来たので少し曲がったネクタイを直した。 背筋を伸ばして、恋人を待つ。 自分たちの部屋なのに緊張する。毎年だ。 ドアが開く。 「おかえり」 「ただいま。遅くなってすまない」 「うわ、またバラ買ってきたのか。キザだな」 「佐久間にはやはりこれが一番似合うと思ってな」 「……ほんとキザ」 「一番いいものを選んだつもりだったが、佐久間と並ぶと見劣りするな…」 手元のバラの花束と恋人を見比べると、恋人は俺の手から花束を受け取った。 「……お前にも似合うよ、バラ。かっこいい」 「本当か?佐久間」 「いいから早く入れよ。寒い」 「ああ。すぐに夕飯の準備をしよう」 「腹減った。早くしないと承知しないぞ」 照れ隠しに少々乱暴な言葉を使うところも、たまらなく愛らしい。 ああ、今年のクリスマスも佐久間と居られて本当によかった。 夕食の後のそれやこれやの計画を脳内でシミュレーションしながら、俺は恋人に手を引かれるまま二人で暮らす部屋のドアをくぐった。 終 稲妻/源佐久 PR この記事にコメントする
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