× [PR]上記の広告は3ヶ月以上新規記事投稿のないブログに表示されています。新しい記事を書く事で広告が消えます。 何気ない日常の風景って本当に大事なものなんだよな。 けんかして嫌な気分のままって本当にめんどくさい。人とぶつかるの苦手。 穏やかな気持ちでいたいから、はやく春にならないかな。なんてね。 今日はユートとカナタの話。 「ん……」 顔に当たる日差しで目が覚めた。カーテンがちゃんとしまってなかったみたいだな。 隣のベッドを見ると、同居人は既に起きだしているようだった。姿がない。 長く寝てしまったなと思いながら伸びをする。眠っている間に凝り固まった筋肉がほぐれていく感覚は気持ちがいいものだ。 窓際に目をやると、窓辺の椅子で読書している後姿が目に入った。 「おはよう、カナタ」 銀色の髪が日に透けてきらきらと光っている。 振り向いたときにきらりとモノクルに太陽が反射した。 「おはようございます、ユートさん」 色の違う双眸が俺を見てにっこりと緩んだ。 とてもきれいだ。本人は気にしているようだけれど。 起き抜けの恰好のまま、窓辺へと歩む。 髪をくしゃりと撫でると、太陽光に当たっていたせいかとても暖かい。 「朝ごはんにしましょうか」 「そうだね」 「僕はサラダを作りますから、ユートさんはパンとチーズをお願いします」 「ああ」 路地にへたり込んでいたカナタを見つけてこの部屋に連れてきてから、もう随分と経つ。 まるでずっとここにいたかのようにカナタは溶け込んで、二人での生活にも慣れた。 俺よりもずっと幼いカナタを守ってやらなければと、兄のような気持ちで接してきたのだが、俺の心が弱かったせいで何度もカナタを傷つけてしまった。 それでもカナタはここにいてくれる。あなたでなければ嫌なんですと。 「今日は天気がいいですね。クエストカウンターも混みそうです」 「そうだね。早めに朝食を済ませて出発しようか」 「はい」 「読んでいた本はいいのかい?」 「ええ。帰ってきたらまた読みます」 二人分の皿にサラダを取り分けて、カナタはそれを俺の前に置いた。 俺も切り分けたパンとチーズ、それから厚切りのハムをカナタに渡す。 「ユートさん」 「ん?」 「ハム。僕は薄くていいので、こっち食べてください」 「カナタのはスペシャル仕様だよ」 「ただ不器用なだけじゃないですか。はい」 「……はは。ありがとう」 皿の上のハムを交換して、手を合わせていただきます。 俺はあまりしたことがなかったけれど、育ちのいいカナタはそれを欠かさずにしていた。 一緒に食事をするから、自然と一緒にするようになった。 二人で暮らすっていうのはこういうことなんだなと新鮮に思ったものだ。 「ソースいりますか?」 「ああ。ありがとう」 俺に彼女がいたことはないけれど、きっと彼女がいたらこんな感じなんだろう。 していることは、男女のカップルと同じだ。パートナーと言えばいいんだろうか。 俺はカナタをいとおしく思っている。カナタも俺を慕ってくれている。 補いあうようなそんな関係。いつの間にか、カナタと一緒にいるのが当然になっている。 「ユートさん?」 「ん?」 「そんなに見られると食べにくいんですけど…」 カナタが耳を赤くして、きょろきょろと視線を泳がせる。 ああ、こりゃ悪いことをしたな。 「ごめんごめん。カナタのことを考えてたんだ」 「僕のことですか」 「うん。カナタの髪、日に透けてきれいだなって」 「……ぼ、くがきれいっていうなら、ユートさんのほうがずっと、その」 しどろもどろにカナタは続ける。俺はその続きの言葉を待つ。 「か、かっこいい……です。男らしいし、きれいです」 「ありがとう、カナタ。最高の賛辞だ」 「はい」 「うれしくて今にも抱きしめたいよ」 食事中だから控えるけど、と付け加えると、カナタは真っ赤な耳のまま。 「……食事が終わったら、してください」 「いいのかい?」 「抱きしめられるの、好きなんです……ユートさんに」 「早く食べ終わってしまおう」 こんなにかわいいことを言われてしまったら、もう我慢できないじゃないか。 クエストカウンターに行くのは午後になってしまいそうだなと思いながら、俺は残りの食事を胃袋に流し込んだのだった。 赤石/剣光 PR この記事にコメントする
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