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ポッキーの日ですがプリッツ派の人間です。ポッキーもうつくしい食べ物だけど。
プリッツのトマト味が食べたい。 あの中毒性のある味はいったいなんなんでしょうね。 なんであんなに人を引き付けるのだろう。 ぽり、ぽりと辺り一帯から小さな音がして、その異様さに筆をおいた。 昨日までに遠征部隊から出されてきた報告書をまとめるためにと朝早くから筆を執っていたのだが。 いつも短刀たちで騒々しい本丸が今日はしんとしており、ぽり、ぽりというその音ばかりが大きく聞こえてくる。 「……何の音なのだ、一体」 ひとりため息をつけば、部屋の向こう側から声が返ってくる。 「ぽっきぃの日だから、皆ぽっきぃを食っているな」 「ぽっきぃの日?」 「主から聞いただけだからよくわからんが、これだ」 「……これは……」 棒のような、これはちょこれいとのついた菓子だ。 確かに主がこれを食べられているのを見たことがある。 「お前さんにも渡しておいてくれってよ」 「箱?貴様の分は」 「俺の分もちゃんとある。主からの心遣いだ。ありがたいねぇ」 ということは、この音はこのぽっきぃなる菓子を本丸中で皆が食っている音なのだろう。 気がかりはひとつ解消された。 「ところで、このぽっきぃを使ったぽっきぃげぇむなる遊びがあるらしいな」 「ぽっきぃげぇむ?なんだそれは」 「博多もやると息巻いていたぞ。聞いてきてはどうだ?」 息抜きがてら行ってこい、とつなぎ姿の男は続ける。 今日は非番だから転がっているのだろうが、見ていてそう気持ちのいいものでもない。 主のところに礼も兼ねていこうかと思ったが、それは報告書がまとまってからでも遅くはないだろう。 部屋を出て少しばかり行けば、縁側でぽっきぃを食っている前田たちと行き会った。 「あ、長谷部さんもぽっきぃ頂いたんですね」 「ああ。その様子だと、本丸の皆に支給されたのだな」 「ぼ、ぼくたちもいただきました。」 五虎退も平野も同じ箱を持っている。やはり主はこの日のためにぽっきぃを集めていたらしい。 「ところでお前たち、ぽっきぃげぇむとやらを知っているか?」 「ぽっきぃげぇむ……?申し訳ありませんが、わかりません」 「そうか。博多がやると息巻いていたらしいのでな」 「博多なら主様の部屋に行くと言っていましたよ」 「そうか。主から頂いたものなのだ、大事に食べろよ」 「はい!」 また廊下を歩いていけば、障子を開けて部屋でごろついている岩融と今剣に行き会う。 この二人はいつもひっついている。元の主がいつも一緒にいたからだそうだが。 「ぽっきぃげぇむですか?ぼくしってますよ」 「今剣も知っているのか」 「はい。いわとおし、してあげたらどうですか?」 「俺は構わんが、長谷部は嫌がるだろうよ」 「嫌がる?そんなものなのか?」 「ぼくはすきです。あるじさまともしたいくらい」 「がっはっは、それは俺も同じくだ!」 「でもいまはいわとおしがいますから」 「そうだな、今剣よ」 二人の世界に入ってしまった岩融と今剣の部屋を出た。 ぽっきぃげぇむについて分かったことはたったひとつ、「俺が嫌がるであろうこと」。 しかし博多はやろうと意気込んでいる。いったいどういうことだ? 主の部屋に行くなら報告書を完成させてからがいい。 一度部屋に戻るすがら、大倶利伽羅を見かけた。 「大倶利伽羅」 「……長谷部か。何の用だ」 「お前はぽっきぃげぇむを知っているか?」 そう尋ねた瞬間、大倶利伽羅の表情が変わった。 「……し、らない」 視線を泳がせながら早口に答えたところをみれば、言いにくいことのようだ。 「その顔、知っているだろう。教えてくれ」 「俺に聞かれても困る」 口数の少ない大倶利伽羅がやはり早口で、言い捨てるように立ち去ってしまった。 ……耳が赤かったような気がする。これは、鶴丸や燭台切には聞きにくい類のものか。 「成果は得られたか?」 「芳しくはない」 部屋に戻り、机に向かう。同居人は部屋を出るときに見た格好そのままだ。 主からのいただきものを傍らに置いて筆に持ち替えた。 あと少しでまとめ終わりそうだというのに、後ろからまた声をかけられる。 「実は俺も知ってんだがなぁ」 「何をだ」 「ぽっきぃげぇむだ」 「ならば最初から言え!」 「いや、お前さんが頭を悩ます様子が面白くてな」 くつくつと声を殺して笑うその態度に腹が立って、とったばかりの筆を乱暴に置いて勢いよく振り向いた。 「……!」 ぴたり、と鼻先に突き付けられたのは、ぽっきぃ。 今までのたるんだ態度が嘘だったかのように、日本号のぎらついた目に射すくめられる。 獲物に向ける目だ。間違っても、仲間に向けるそれではない。 ごくりと生唾を飲み込んだ。この男の目は、強い。 「……なあんてな」 鼻先に突き付けられていたぽっきぃが、俺の唇に触れた。 すっと細められた目に、先ほどまでの息苦しい緊張感が解ける。 息をついて、今まで呼吸をしていなかったことを思い知らされた。 「貴様、」 「ぽっきぃげぇむというのはな」 俺の言葉を遮るようにして日本号は続ける。 「手は使わず、ぽっきぃの端と端を銜えて、どちらがより多く食べられるか競うものだ」 「な、それは」 「途中で折れたら、折った方が負け。つまり最後には口づけだ」 「く……」 「な?お前さんの嫌いそうなもんだろ?」 「当たり前だ!」 「主はそれを皆とやりたいと」 主がそんなことを皆としたいと? そういわれて、初めて合点がいく。今剣と岩融の会話。 成程岩融と今剣ならば仲もよいし、主を敬愛する刀が主とそれを望まないはずはない。 そのような幸運はなかなかないことだ。 「主は強かったぜ」 「貴様!まさか主と!」 「まさかも何も、教えてくれたのは主本人だ。あの人は強い」 「ふざけるな」 「お前さんにもお声がかかるだろうが、お前さんは途中で緊張のあまり折っちまいそうだな」 「はっ、やったこともないのになぜわかる。俺は主を誰よりも敬愛している」 「敬愛してようがへたくそはへたくそ。負けは負けだ」 日本号の物言いが癇に障って仕方ない。思わず手が出そうになる。 「何なら練習相手になってもいいぜ」 「貴様なんぞと誰がするか!」 「経験者の俺と、未経験者のお前さんじゃ経験値が違うもんな。負け戦はしたくないよなぁ」 「……やってやろう。俺は主のためならなんでもする。後悔しても知らんぞ」 売られた喧嘩は買うしかない。ここで引いては刀が廃る。 ずっと唇に突き付けられて、ひとの体温で溶けたそれを銜えた。 「泣くことになっても知らんぞ」 「それはこっちの台詞だ。圧しきる」 銜えたままだから喋りづらかったが、十分に意味は伝わったらしい。 反対側を日本号が銜える。思っていたよりも顔が近い。 無精髭を生やしてはいるが、整った顔が近くにあると多少どぎまぎする。 意外と睫毛が長い。 「三、二、一」 はじめ、と日本号が言う前に齧り始めたのだが、手を使わないだけでぐっとむずかしい。 難しいうえに、力の入れ具合を間違えるとこの細さではすぐに折れてしまうだろう。 さてどうしたものかと目の前の男を窺えば、余裕めいた色が目に浮かんでいる。 それにもまたむっとして、細心の注意を払いながら食べ進めた。 しかしこれは、このままいくと。その。 どうやっても相手と口づけすることになるのではないか。 どうにか回避する方法を考えていたが、どうやっても回避できそうにない。 詰んだ、とはまさにこのことだ。 「どうした?」 銜えたまま尋ねられて、眉をひそめて抗議の意を示した。 「負けてもいいならここで終わりにするか」 「……いやだ」 意地を張っているのは分かっている。 それでも退くわけにはいかない。 この後主とのぽっきぃげぇむが控えているのだ。主を楽しませるのもまた俺の役目だ。 なるべく顔を見ないように、視線を伏せる。首元の装飾に目がいく。 無骨だ。この男にも、その戦い方にもよく似合っている。 ふと息遣いを感じて、唇に触れる柔らかい感触。 条件反射で視線をあげてしまって後悔した。 日本号とくちづけている。 身体が動かなかった。ただ阿呆のように固まっていた。 一度離れた唇をもういちど重ねられて、それでも俺の体は動くのを拒否した。 頭と体が別々のもののようだ。こんなのはおかしい。 「お前さんの勝ちだ。ごちそうさん」 頭をくしゃりと撫でられてなお、体は動かない。 陸に揚がった魚のように、口をぱくぱくさせても声は出ない。 抗議してやろうと思っているのに、顔が熱くなるばかりだった。 「主んとこ行くんじゃないのか?」 「……な、なっ」 「お、やっと声が出たか」 「なん、なんで」 「お前さんが思ってたより可愛くてな」 こんなの、勝ち負けなんてどうでもいいじゃないか。どうしようもないじゃないか。 むしろ勝った負けたで言うのなら、明らかに俺の負けだ。 日本号のあの顔、吸い込まれてしまいそうな目。 「どうした?主のところに行くんじゃないのか?」 「……立てん」 「腰抜かしちまったか。そんなに俺は恐かったかね」 立ち上がった日本号に、ほれ、と手を出されて、一瞬戸惑ったがその手を取った。 ぐいと引かれて、力の入らない体はそのまま抱きとめられる。 丁度立ち上がっても目線がここにくるのか。 「ほら、行ってこい。主がお待ちかねだろ?」 「……行ってくる」 ふらふらする足で部屋を出て、主の部屋へ向かう道すがら。 先ほどのことを思い出して動けなくなり、部屋から出てきた主自らに介抱されたのは言うまでもない。 *** 「あんたに言われた通りにやったんだが、腰を抜かされちまってなぁ」 「長谷部は真っ赤だったよ。きっと私とポッキーゲームをするより、お前との方がドキドキしたんだろうねぇ」 「そうかね」 「仲良きことは美しきかな。これからも長谷部を頼むよ」 「あんたの頼みとあらば」 PR この記事にコメントする
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